以前こちらからマルセル・ガスコアンやロジェ・ランドーについてご紹介した際、素晴らしい名作家具が生まれた時代背景としてフランスの戦後復興期の「リコンストラクションスタイル／commission du meuble de France」について触れさせて頂きました。
この時代、収納家具の設計デザインの分野で活躍した特殊なデザイナーが存在しました。その名も「ディディエ・ロザフィ（Didier Rozaffy）」。第二次世界大戦後の１９４０年代から１９６０年代にかけフランスの家具メーカーOSCAR社と協業しながら、当時として画期的な家具の設計を行ったデザイナーとして近年その評価を高めており、本日はこのデザイナーについて触れてみたいと思います。
１９３９年から１９４５年にわたる第二次世界大戦期の被災を経て、膨大な数の被災者が生まれ、戦後のフランスは建築や被災者の住まい再建とともに家具の生産の必要性に直面していました。
第二次世界大戦の終わりにはヨーロッパでは約１０００万人を超える人が家を失い、特にフランスはドイツに次いで２番目に大きく被災した国の一つでした。当時のフランスは２００万人の犠牲者とともに３１万戸の家屋、４４万棟の建物が完全に破壊されており、産業やインフラへの損害回復の問題を解決していく必要がありました。
中でも建築再建と家具の生産は戦後におけるフランスにとって最優先課題となっており、そんな時代背景の中でフランスの建築家や家具デザイナーたちも自国の復興のために長きにわたり力を尽くし活躍したのがこの復興期でありました。
小さく、実用的な生活空間にも製造過程にも適した優れたデザインの機能的な家具が必要となった復興直後の狭小住宅では被災者が暮らす上でまだまだ不便が多かった中、「Commission du meuble de France」という当時の装飾家、家具メーカー、商社、職人などで構成されるプロフェッショナル集団により、当時の被災者の暮らしが少しでも豊かになるよう家具の生産目標が掲げられました。
当時のフランスにおける最高の建築家、装飾家、家具デザイナー、エンジニアたちが家具を工業生産するため尽力した中、ロザフィの設計思想において特に優れていたのは「Decomposable Design（ディコンポーザブルデザイン）／分解可能な家具」概念構築を成した点にありました。
収納の本来的な機能として、多く収納する、大きく収納する役割が求められていましたが、上記の特殊な時代背景から物流において、また搬入においては小さなものである必要がありながら、搬入後に組み立てが可能なロザフィによる設計の美しい収納家具の存在によって「建築と家具」の融合が見事に果たされたのです。
小さな部屋でのユーザビリティ、品質を保ちながら工業生産が可能な生産プロセスやデザインモデルなど、一定の制約の中で繰り広げられたロザフィーの活動領域はプロダクトデザインにも近いものであったに違いありません。
フランスの国立工業所有権研究所 (Inpi.fr)によると、ロザフィの設計に関する特許は「容易に分解し再び組み立てることができる家具の設計」「釘、ネジまたは接着剤を用いずに建具作業が可能な家具の設計」「複数の家具によるスタッキングや結合可能な設計」など含む９件（1949-1963）にも及んでいます。
この度、ロザフィによる貴重な作品が３点入荷しましたので、合わせてご紹介致します。建築と家具を決して切り離すことなく、小さなスペースの最大活用化が大きなテーマとして掲げられていたフランスの戦後復興期のコンセプトは、今日の私たちの都市での暮らしを考える上でもたいへん親和性の高いものとなっています。
ロザフィが設計した収納家具は現代の暮らしの中で、またアトリエや店舗など事業空間の中で素晴らしい質、機能を持つ家具を取り入れたい方に大変お薦めのプロダクトとなります。
1960's Oak Wide Cabinet Designed by Didier Rozaffy for Oscar
→ https://shop.archeologie.jp/collections/all/products/oak-book-shelf-by-didier-rozaffy-for-oscar
1960's Oak Cabinet with Orange Glass Designed by Didier Rozaffy for Oscar
→ https://shop.archeologie.jp/collections/all/products/oak-cabinet-by-didier-rozaffy-for-oscar
1960's Wall-mount Cabinet by Didier Rozaffy for Meuble Oscar