私たちは、家具の形や機能を純粋に評価することもありますが、作品を生み出したデザイナーが築いてきた時間、歴史と歴史の繋がり、またデザイナーが輩出した偉業にもスポットを当てながら、デザイナーや建築家に対してより親近感が湧くようなストーリーも大切にしています。
今日は1907年に生まれ、戦前〜戦後のデザイン史における最も重要なフランス人デコレーター兼デザイナーの1人であった(マルセル・ガスコアン)の貴重な作品の新入荷に伴い、このデザイナーについて書かせて頂きます。
船乗りの一家に生またガスコアンは、幼い頃に自分の天職を見つけました。海や港の環境が身近にあった彼は、幼少期から船が必要とする「狭くて整然とした空間」に関心を強めており、その学びを陸にも応用できるのではないかと考えていました。
そのような洞察から着想を得た若きガスコアンは、フランス北西部の港湾都市ル・アーブルにある工業高校(現Lycée Jules-Siegfried/旧Ecole Pratique/湾岸都市だけあり、この学校は機械研究造船所の監督や設計者を養成することを目的として設立されました。)で既に機械設計の監督技能や製図者としての技術を学んでおり、1924年ー1925年(ガスコアン16歳ー17歳時)には既にこの専門分野で名誉ある技術資格を授与されています。
この時期に自分が書いた図面やプロトタイプを具体的な工業生産のためのモデルに変換する技術を獲得し、非常に優秀な人材であったことが知られています。
更にÉcole nationale supérieure des arts décoratifs(国立高等装飾美術学校)で大工、職人としての技術的な訓練と理論を学びます。その後、当時の代表であったロベール・マレ=ステヴァンスの薦めで1930年よりUAM(Union des artistes modernes/現代芸術家協会/1929ー1959)に加わりました。マレ=ステヴァンス、ルネ・エルブスト、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャヌレ、ジャン・プルーヴェらUAMを率いた建築家、芸術家たちと共に、過去からの脱却と未来を見据えた、人々の豊かな新しいスタイル構築を目指しました。
UAMでの出会いから、1934年からはスチール製の船室製作の実現に向けジャン・プルーヴェの工房と協業しています。アルミや合板などの新しい素材を試しながら、プレハブの技術さえも習得し、効率性と高品質なプロダクトの仕上げを両立させていきました。この時期の経験から大きな影響を受け、ガスコアンは前時代の主流であった「アールヌーヴォー、装飾的アプローチ」ではなく合理的で、機能的なデザインアプローチの研究に舵を切ります。
1939年以降の第二次世界大戦によって活動や訓練は中断を余儀なくされましたが、戦争直後、フランス国内の被災地復興のために建物が大量に建てられる潮流の中で、ガスコアンは質が高くシンプルでモダンな家具が大量に求められる需要を掴み、「モジュール式の家具」をコンセプトにしたデザインでローコスト住宅、学校、オフィスのための家具デザインの依頼を多数受けて大成功を収めました。ガスコアンはこの復興期に同じく活躍したルネ・ガブリエルやロジェ・ランドーと共に「再建」という意味を持つ「リコンストラクションスタイル/commission du meuble de France」の家具のスタイル構築にも貢献を果たしました。
第二次世界大戦後はガスコアンのワークショップでキャリアをスタートさせたデザイアーも多く、ピエール・ガーリッシュ、ピエール・ポーラン、ルネ・ジャン・カイエットなど後のフランスのデザイン界を牽引する偉大なデザイナーたちを輩出したこともガスコアンの偉業の1つとなっています。
戦前には若くしてロベール・マレ=ステヴァンス、ルネ・エルブスト、ルネ・ガブリエルなど当時の重鎮から見出され、戦後には70年代から輝きだすフレンチデザイナーの教師役としても力を発揮し、時代と時代の狭間を力強く繋げることにも成功しました。
マルセル・ガスコアンは1986年に89歳で亡くなるまで「デザインとは、家庭内の問題を解決するための学問であり、革新を受け入れる職業である」という哲学を掲げ生涯にわたって精力的に活動していました。
今日のフレンチモダニストに対する新たな発見や再考によって、最高度に重要なデザイナーであったマルセル・ガスコアンへの評価は今後更に高まっていくことが期待されます。
そんなマルセル・ガスコアンが手掛けたエレガントな形状、頑丈な構造、シンプルなハードウェア、そして座り心地の良い座面や背もたれの角度とフォルムを備え「実用性と美しさが完璧に融合している」貴重な作品が新入荷致しました。
元々ベビーチェアやスクールスツールとして使用されていたモデルで、座面の向きを変えることで座面の高さが変わる構造になっており、3通りのポジションでお楽しみ頂くことができます。今日、ハイセンスの精鋭インテリアデザイナーが大人のためのインテリアアイテムとしてローテーブルとして活用し、再評価を獲得している名作となります。
Tabouret 3-positions by Marcel Gascoin
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